フィンランドの小学校の性教育の授業で出た「宿題」がナナメ上過ぎた。 

政府のプログラムでフィンランドに3週間滞在、「#幸せの国のそのさき」を連載したハフポスト日本版のエディター、井土亜梨沙が、現地の様子を報告するイベントが9月28日、東京都内で開かれた。

日本人とフィンランド人の両親を持ち、同国で育ったエスコラ茜さんを招き、就職活動から性教育、家族のありようまで話は広がった。概要を報告する。


■高い起業率「10回失敗した。11回目でうまくいきそう」

井土)滞在中、日本で働いた経験のあるフィンランド人とピクニックをしたんですが、びっくりしたのは、参加した4人のフィンランド人のうち3人が起業していたこと。起業は自分の周りに無いことで、ワインの会社を経営していたり、起業とインターンと学生を並列している学生がいました。起業って、フィンランドではよくあるんですか?

エスコラ)よくあることですね。大学の授業でも起業するにはどうしたらいいかという授業もあります。講師の人が30代だと思うんですが、もう10社立ち上げてぜんぶ失敗して、11社目がうまくいきそう、という状況でした。その講師は、最初に「起業しない方がいい」と話して自分の経験を話してくれたのですが、最後に「僕の話を聞いてもまだ起業したい人」と聞くと、それでも学生の半分くらいが手を挙げていました。

失敗してもやり直せる、というのがあると思います。必ず次の成功につながるということを身をもって話してくれているのが印象的でした。

失業手当、生活保護があり、起業家のためのローンもいい条件で、若い人でも借りられているできるだけ起業した方がいいという雰囲気があります。

若い人同士の起業のネットワークも強いし、政府系のサポートもあるし、失敗しても大丈夫という感じで、皆さん本当に気軽に起業します。

井土)失敗が怖いから新しいことにチャレンジするのがこわいというのがありますが、起業以外にも、新しいことにチャレンジするという精神はあるのでは?

エスコラ)小学校から大学院まで学費が無料で、返済の心配もしなくてもいいし、返済不要の学費手当が、月5万-6万円ほど出ます。社会人になって、例えば仕事しているうちに、スキルの必要性が出てきて学生に戻るときに、大丈夫、自分をアップグレードしていくことはいいことだから、と返済しなくていい学費手当が出るんです。だからいくつになっても新しい自分に出会えるというのがあります。

ゲストのエスコラ茜さん

井土)3週間のプログラムで、何十人もの人に会いましたが、そのプログラムを作っていた2人のうち、1人が学生インターンでした。でも、仕事内容がほとんど正規職員と変わらなかったのが印象的でした。

エスコラ)フィンランドのインターンは半年くらいの期間があって、その間に認められれば、卒業後、「うちにおいで」と誘われることもあるし、何か違うなと思ったら別の所に行ける。企業にしてみれば、インターンに本格的に働いてもらうことで、新卒の訓練が省けるという意味もあります。ゼロから教えなくてもいいし、双方にとってメリットがあるんですね。

井土)小中学校を訪問して聞いたのが、いじめ対策でした。フィンランドの学校は、3年生のクラスの隣に1年生のクラスがあるなど、ごちゃ混ぜに教室を置いていました。そうすることで、上級生が、もしくは下級生が見えている、という多角的な視点を置いているというのが興味深かったです。エスコラさんは日本の小学校にしばらく通われていましたが、フィンランドの学校との違いはどうですか?

エスコラ)塾がないですよね。日本では3年生くらいになると、塾に行っていなかったのは、私くらいでした。公園に行こうと言っても、「ごめん、これから塾なんだ」と言われてしまう。

私自身は、塾に行きませんでした。親も「行く理由が分からない」と。塾は楽しいところなんだろうかと思って友達に聞いたら「今日の復習をするところ」という。何で同じことをしに塾にいくんだろう、と思ったのを覚えています。

もう一つは、授業のスタイルです。日本の場合、教員は「目上の人」という位置づけで○○先生、と呼ばれる。授業も先生が情報を伝える一斉授業のかたちです。対して、フィンランドの教員は、ファーストネームで呼ばれます。授業の最初前半に基本を教えてその後、問題集をやって、早い子が終わりったら「じゃあ、他の子を教えてあげて」と頼まれる。

井土)先生は何をしているんですか?

エスコラ)コーヒー飲みながら、様子を見ています。(会場笑)

井土)えーーー

エスコラ)日本だったら、それ先生の仕事じゃないの、といわれそうですけど。生徒同士で教え合うとか、相手に教えるって、本当に自分が理解していないと出来ないことですよね。教えている間に、あ、ここ自分は分かってなかったと気付いたりする。そこでじゃあ先生教えて、と、本当に分からないときはそこで先生が登場する。

井土)最後のセーフティーネットみたいな。

エスコラ)そうですね。そこがたぶん、生徒同士の対話が多いのが、フィンランドの特徴かなと思いました。

井土)確かに、教員の立場が全然違うと思いました。日本だと先生は教える立場で、先生の言うことが絶対だけど、フィンランドは、生徒が学ぶために先生はアシスタントとしている、という印象を持ちました。もちろん、日本の教師の方々も子どものために教育しているのですが、子どもの学びたい意欲や速度にあわせたり、尊重したりしている印象がありました。

■小学校の性教育の授業で出た「宿題」

井土)今年、足立区の中学校で避妊方法を教えていたことで、教える時期が早すぎると批判されました。フィンランドでは、そういうことはあり得ますか?

エスコラ)あり得ませんね。フィンランドでは、避妊方法は小学4年生か5年生で習いました。私の頃は男女別々で習っていましたが、いまは男女一緒に受けます。基本的な体の仕組みやライフサイクルなどを教えてもらった後、その後、「では避妊とは」と教えてくれます。避妊具や生理用品などが入った箱が配られたりしましたし、中学校でコンドームの使い方も習いました。やり方は自治体に任されています。

井土)フィンランドでは、無料でコンドームやミレーナという避妊具を無料で若者に配るというのに驚きました。政策の中に、普通に「性」が組み込まれているのはすごいな、と。

エスコラ)正直なところ、何がいけないのか分からないです(笑)

井土)男女関係なく20人くらい集うホームパーティに行ったんですが、その場で男女がコーヒーを飲みながら「どの避妊用具が使い勝手いいか?」と感想を言い合っていたのに驚きました。しかも、使っている避妊用具が多様でした。

エスコラ)日本だと、避妊は女性が気をつければいい、という意識があるように感じますし、話に出すことさえしない、と思っています。フィンランドは学校教育でしっかり性教育をしているし、避妊は2人でするもの、という考えが前提です。避妊はお互いが責任をもつこと、という認識があるので、逆に避妊に関する正しい知識を知らないことは、恥ずかしいと思われてしまう。

井土)生理用品で思い出しましたが、日本だと、コンビニエンスストアに性描写のあるエロ雑誌が置かれているのに、生理用品はすごく隠されて売られていますよね。紙袋や黒い袋に入れられる、とか。違和感ありました?

エスコラ)文化的な違いもあるかと思いますが、フィンランドでは性に関することは日常生活に当たり前にあることだと認識されているのに、日本ではすごく隠蔽して、いけないことのように扱われている。なんで隠すのか、何がいけないのか、何が恥ずかしいのかな、と疑問に思います。

井土)日本に来たとき、誰もかかりつけの産婦人科医を持っていないことに驚いたそうですね。

エスコラ)フィンランドなら、女性なら産婦人科、男性なら泌尿器科にちゃんといってね、と授業で熱心に勧められます。自分の健康に関わることだし、妊娠しているかどうか性行為をしたかどうかは、通院とまったく関係ありません。何もなくても、健康診断と同じように、年1度受診します。産婦人科医との相性も大事で、むしろ知り合いの間で、さっき話したような、避妊具の使い勝手と同じくらいの感じで、オススメの産婦人科医の情報交換をしています。それを「行ったことがない」と言われると、え、自分の体なのに….と思ってしまいます。

井土)わたしが一番驚いたのが、茜さんの小学校の性教育の授業で出た、宿題の話でした。

エスコラ)驚く話かな、と思うんですが。(笑)、小学校4、5年に性教育の授業があるんですが、最後に宿題が皆に出ます。

「おうちに帰ったらバスルームのカギをかけて、自分の体を見て、いろいろ触ってみて下さい」という内容です。

男の子なら性器が外に出ているから分かりやすいですが、女の子はそうなってないから「先生、女の子はどうしたらいいですか」という質問が出たんです。そしたら、教師は「手鏡を下に置いて、しゃがんで見て下さい」と。

それが全然恥ずかしいということじゃないんです。うっかり親が部屋に入ってこないように、自分の「プライバシー」を確保した上で、じっくり時間をかけて、自分で自分の体を研究して下さい、という課題でした。そして別に必ず調べてレポートを、などと強制される訳ではなく「帰ってやりたい人はやってください」という感じです。翌日学校に行くと、みな「見た?」とザワザワしていました。

井土)親はそれを知って驚愕しないんですか?「うちの子になんでそんなことをさせるの」と。

エスコラ)ないですね。

井土)日本ならクレーム来そうな取り組みですよね。

エスコラ)でも、インターネットのあるご時世、間違った知識で取り返しのないことになるより、どうせどこかで情報は得てくるのだから、だったら正しい知識と対処法を学校教育で与えて、と言えると思います。

会場からの質問

Q)フィンランド語が分からない子どもには、学校の授業でどんな対応をしているのでしょうか。

エスコラ)私も日本からフィンランドに引っ越したときは、一言もフィンランド語が話せませんでした。たぶん、すべての小学校にあると思うんですが、フィンランド語が母国語じゃない子ども向けの授業があります。補習授業ではなく、普通の授業と同時進行で、サポート的な小グループで学習の時間があります。文法などをきちんとやって、ゆくゆくは、他の生徒たちと普通に授業を受けられる水準に持っていきます。

井土)私が見学した小学校では、その生徒の第一言語の教師をつけていました。その学校では5カ国語の教員が児童に教え、教育の中で言語に困らないようサポートしていました。

■多様な家族のかたち

井土)滞在中、週末はホストファミリーの家に泊まらせてもらったんですが、息子夫婦も子どもを2人連れてきていたんですが、彼と話していたとき、何げなく「いや、結婚してないんだよね」と言ったんです。

私は「子どもがいる=結婚」という思い込みがあったんで、え、どういうこと?と、聞き返したら、結婚は2人の関係であり、2人のことだから、子どもの有無は関係ない、といっていました。フィンランドでは幸いなことに、結婚していなくても子どもがいれば、公的に申し込みさえすれば、父親だと認められ、権利も得られるので、子どもに影響はない、と言ってました。

これから結婚はどうするの?と聞いたら、そこは2人で話し合っていこうと思う。タイミングは2人で決めたい、ということでした。3週間しかいなかったのですが、フィンランドの家族の形は様々だと思いました。

一方、離婚率は高いんですよね。

エスコラ)とても高いです。

井土)子どものために離婚しない、という家族は日本にいますが、夫婦関係の悪さを子どもの目の当たりにさせるのは、子どもにとっていい環境じゃないと考える人が少なくないなと思いました。

エスコラ)子どもって親の関係が悪いのは自分のせいだと思っている子もいるから、離婚してすごく平和になった!というケースもあります。本当に別れてくれて良かったと思っている子どももいる。新しい家族ができると、適応できる子とできない子が出てきます。また、家が2つできるので、1週間おきに父母の家を行き来する、という子も多いです。

井土)頻繁に行き来するのは、共同親権だから、というのが大きいんでしょうね。ただ、子どもは両親の家を行き来しなければならない。子どもにとっては大変なときもあるでしょうね。

エスコラ)お父さんの家に宿題を忘れてきちゃったとか、お気に入りのセーター、お母さんのところにある、とか細かな話もたくさんありまし。

ほとんどの家は互いの家に子どもを送り迎えするようなことは続けていますが、本当に顔も見たくない、という場合、子どもが1人で両親の家を自分で行き来している、などの苦労もあります。

私の母は「本当に子どものことを考えるなら、子どもを1軒の家に落ち着かせて、そこに父母が交代で行き来すればいい!」と言っています。親の再婚相手と仲良くなれるのか、家族と思えるのか、そもそも家族と思う必要すらあるのか、という観点もあります。

完全に「他人」ということで切り離して、名前ではなく「お父さんの彼女」がという呼び方をする人もいたし、逆に実の母親と仲が良くなくて、再婚相手が「父母」だと思っている、というケースもあります。一般的には、子どものために離婚しないというより、やり直しがきくというのは、家族のあり方にも出ていると思います。

井土)起業や社会人の学び直しもそうですが、家族にもあてはまるんですね。

エスコラ)そんな簡単に離婚するのなら、そもそもなぜ最初から簡単に結婚するのかと聞かれます。いろいろ理由はありますが、なにより、子どもの法律上の権利は、親が結婚していてもしていなくても変わらないのもあると思います。誰のために結婚するのが問われているし、してもしなくても紙切れ一枚なら、お互い一つ屋根の下、エコノミーをシェアして、間に子どもがいて、それで家族と呼べるならそれでいいじゃない、という感じです。

井土)何歳までに結婚しなければ、という考え方はフィンランドにはあるんですか?

エスコラ)ないですね。わたしの父が1980年代の日本に初めて来た時、25歳の未婚女性のことを(婚期を逃した)「クリスマスケーキ」と呼ばれていることを知って、もおのすごく憤慨した、という話があります。そんなの人それぞれの自由だし、同じレールに乗る必要は無いし、それぞれの人生の状況は、マニュアル化できるものじゃないし、これが絶対正しいものじゃないし。人の目を気にする必要は無いのは、すごく感じます。他人に迷惑をかけない限り、好きに生きていいんだよ、ということが小学校の時から言われているので、そうするとこっちに来たとき、すごくみんな、周りの目を気にしているんだなと感じました。そこが日本とフィンランドの大きな違いだと思います。


*イベント開催に際し、「共信商事株式会社 サンタクロース事務局」様、 平松隆円・東亜大学准教授様に協賛いただきました。ありがとうございました。

Source: ハフィントンポスト