投資なんて、すべきじゃない。

FRANCE - 1970:  Printer of computer IBM 1132. France, 1970.  (Photo by LAPI/Roger Viollet/Getty Images)

「貯蓄から投資へ」という言葉が定型句のようにさえ聞こえる今日この頃ですが、私は、原則として「投資なんてすべきじゃない。」「投資は難しいものだ。」という認識からスタートすべきだと考えています。

「何に投資すればいいの?」といった相談を、友人から受けることもしばしばありますが、大事な相手であればあるほど、「投資が損失を出したらどうしよう」という思いが先に立つため、投資のリスクや難しさばかり説明してしまいます。

また、人に投資を勧めるならば、自分自身の資産についても、その相当部分を投資に回していなければ、おかしいと思います。私は、小額ながら資産の約9割を投資に回していますが、それでも、安易に人に勧めることはできません。

簡単にできるセンスチェックは、会計の知識があるかどうかです。会計が分からないのに株式投資をするのは、ボールを真っ直ぐ蹴れないのにサッカーの国際試合に出るようなものだと思います。会計の知識がなければ、基本的には誰かに加工された二次情報でしか各企業の状況を把握できません。上場株に投資をするならば、ウォーレン・バフェット氏など、聡穎な猛者たちがしのぎを削る株式市場に、同条件或いはしばしば彼らよりも悪条件で(長い歴史の中で蓄積してきたノウハウや組織的な取り組みによる強みなどがあるかどうか)参戦するんだという覚悟を持つ必要があると思います。

図書館や本屋さんに行くと、よく「易しい投資術」といったようなタイトルの本を見かけますが、私は15年近くこの業界で仕事をしてきて、投資を容易だと思ったことは一度もありません。むしろ、年々その難しさ、奥深さを痛感しています。

投資が簡単かどうか、客観的なデータをもとに、一定の検証をしてみたいと思います。

よく受ける質問の一つに、「これからはどの国/マーケットが伸びそう?」というものがあります。こういったマクロ経済予測から投資におとしこむ手法を、トップダウンと呼びます。しかし、データで検証してみると、トップダウンのアプローチで投資リターンを実現するのは、そう簡単ではないことが分かってきます。

まず第1に、マクロ経済の予測自体が困難です。マクロ経済モデルを組んでみればすぐに分かりますが、GDP成長率一つとっても、その予測にあたっては、多くの変数を考慮に入れる必要がある上に、フィードバック・ループもあります。また、各変数の感応度も見極めが難しく、予測の過程で些細な間違いを犯しただけでも、得られる答えが大きくブレます。もちろん、それでもこの種の予測に秀でている方はいらっしゃるわけですが、私は、少なくとも自分がこの分野で競争優位性を獲得し、且つそれを維持していくのは極めて困難であると、確信しています。経済学部を卒業しておいてこんなことを言ってはいけない、という思いもありますが、残念ながら自分の実力のなさは認めるしかありません。

次に、仮にマクロ経済を正確に予測できると仮定したとしても、それが必ずしも投資リターンにつながるとは限らないという難しさがあります。これについて、いくつかデータで検証してみたいと思います。

まず、下のグラフをご覧下さい。このグラフは、1970年から2009年までの約40年間について、10年ごとの投資期間における人口一人当たり実質GDP成長率と株式の実質リターンとの関係を、83カ国183件プロットしたものです。目測でも、この2つの変数に相関関係がないことは見てとれるかと思いますが、統計的にも、相関係数はわずか0.12、R‒2乗値も1%と、有意な相関は認められません。

次に、更に長期間にわたる当該2変数の関係を検証してみたいと思います。下図を見て下さい。ここでは、1900年から2009年までの約100年間において、19カ国を、株式実質リターンをもとにx軸に昇順に並べています。(つまり、この約100年間においては、19カ国の中で株式実質リターンが最も高かったのはオーストラリアや南アフリカで、逆に低かったのはイタリアやベルギーであるということです。)

一方、水色の棒グラフが、それぞれの国の同期間における人口一人当たり実質GDP成長率を示しています。

もし株式実質リターンと、同GDP成長率との間に、有意な相関があれば、水色の棒グラフは、右肩上がりになる筈です。しかし実際には、下図のように、同GDP成長率にはバラツキが目立ちます。

次に、図を完成させるべく、各国の株式実質リターンを示す紺色の棒グラフを追加します。例えば、この期間中、日本の人口一人当たり実質GDP成長率は19カ国の中で最も高いものでしたが、その株式実質リターンは、同GDP成長率が最低だった南アフリカの約半分でした。

過去データを分析してみると、人口一人当たり実質GDP成長率と株式の実質リターンとの間には、直観的に想起されるような相関関係は認められませんでした。平たくいえば、どの国が伸びそうか言い当てたとしても、必ずしもそれで投資リターンを実現できるとは限らない、ということです。

この背景には、例えば、株価に早い段階で将来の経済成長が織り込まれてしまっていること、或いは、経済成長が新たな競争を呼び込んで、結果として株式投資の収益性を低下させていることなどがありえるかと思います。

それでは、国単位ではなく、セクター単位で予測してみると、どうでしょうか?だいぶ予測がたちやすくなるような気がします。

ここで一つクイズをしたいと思います。

バック・トゥ・ザ・フューチャーよろしく、1970年代へタイムスリップできたと想像してみてください。あの映画の中で、Biff Tannenが未来のスポーツ年鑑で結果を先に知ることで、大儲けするという描写がありますが、それに近い感覚で、タイムスリップして株式投資をして儲けるようなイメージを持ってください。ただ、株価をそのまま用いて取引する想定だと、クイズとしてなんの面白みもないので、株価は知らないという想定で、今の世界の様子を知識として携えたまま、1970年代へ戻り、株式の銘柄選択ができたと考えてみましょう。

あまり議論が分散しすぎないように、2つのセクターに絞ったクイズにしたいと思います。ここ40-50年で最も大きな成長を遂げたセクターとして真っ先に思いつくのは、ITかと思います。逆に、困難に直面しているセクターの例として、タバコを挙げたいと思います。

クイズは、「1970年代にタイムスリップして、IT企業(当時の2大テクノロジー銘柄であるIBM及びデジタル・イクイップメント)とタバコ企業(当時の2大タバコ銘柄であるブリティッシュ・アメリカン・タバコとフィリップ・モリス)、どれに投資をするか?」というものです。

IT業界に目を向けてみると、1970年代は、ようやく個人向けのコンピューターが少しずつ出始めた頃で、今のように皆がパソコンを持つような姿はイメージできなかった時代です。携帯電話に到っては、平野ノラさんの「しもしも」で有名なショルダーホンが発売されたのが1985年で、1970年代は、まだ黒電話の時代です。そこから、言わずもがな、IT業界は目覚しい成長を遂げます。

一方で、タバコ業界について考えてみると、多くの公共スペースが禁煙となり、タバコ企業は相次いで高額の訴訟に直面し、規制も強化される一方です。

1970年時点で、どちらが有望な業界であるかは自明だと、私は感じます。

こういった情報を携えて、1970年代に戻ったとき、皆さんはどういった投資ポジションを組みますか?

次回、一緒に答え合わせをしていきましょう。

注釈:本文中の見解は、筆者個人の見解であり、筆者が所属する組織の公式見解ではありません。

Source: ハフィントンポスト