杉田水脈議員の「差別発言」に抗議するデモに、なぜ5000人も集まったのか

7月27日、東京・永田町にある自由民主党本部前で大規模な抗議行動が行われた。

自民党の杉田水脈衆院議員が月刊誌「新潮45」誌上で、「LGBTは『生産性』がない」などとLGBTQに対する差別的な文章を寄稿したことに抗議し、議員辞職を求めるデモだ。LGBT法連合会の事務局は、約5000人が参加したと発表した。

抗議デモのきっかけは、ある個人のTwitterだった。このような大きなデモに発展した背景はなんだったのか。現場でのルポを踏まえて考える。

個人の呼びかけが、5000人規模のデモに

デモがスタートする30分前、午後6時30分に筆者が現場に到着した時、すでに多くの人々が集まり、警官隊によってできた規制線の中で整列していた。動員されている警察官の数もかなりのもので、警備当局が相当の人出を予想していたことが分かる。

予想通り、定刻にデモが始まった午後7時には参加者の数はいっきにふくれあがり、自民党本部前から伸びたデモの隊列は、角を曲がって衆議院第二議員会館の前あたりまで伸びていた。

これだけ多くの人が集まったデモだが、発端は個人によるTwitterでの呼びかけだった。

デモの数日前から、あるハッシュタグが盛んにツイートされはじめた。

#0727杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議

このハッシュタグを作ったのが平野太一さんだ。自身もゲイ当事者である平野さんは、その動機についてこう語る。

「(杉田議員が差別発言している)動画を見て『これはない!』と憤った。抗議行動をするべきだし、やるなら早い方がいい。そんな気持ちでハッシュタグを作りました」

ハッシュタグを作ってデモを呼びかけた平野太一さん。

東京レインボープライドの参加表明

平野さんの呼びかけに多くの人々が賛同するとともに、LGBT自治体議員連盟やLGBT法連合会など様々な団体が参加を表明した。とくに大きな反響があったのは東京レインボープライド(TRP)が参加表明したことだった。

TRPは近年、ゴーデンウィークに10万人以上を動員する日本最大のLGBTQの祭典だが、これまで個別の政治的な事案に踏み込んだ声明を発表することはなかった。

東京レインボープライド共同代表の山縣真矢さんは、「TRPのスタンスは、これまでも、そしてこれからも、特定の政党に偏ることなく、各政党横並びでの関係づくりであることに変わりはありません」と前置きしながら、次のように語った。

「今回の杉田水脈議員の論考は、事実誤認も甚だしく、人権をないがしろにした酷いもので、また優生思想にもつながる看過できないものでした」

「『Pride』(プライド)という(LGBTQの権利獲得の)歴史的にも重みのある言葉を冠する団体として、ここで抗議の声をあげなければ、その存在価値を見失うのではないか。そんな怒りや危機感から、今回、このような形で抗議行動に参加することにしました」

さらに、こうコメントを続けた。

「約5000人が集まった歴史的な集会となりました。これで終わりではなく、さらに連帯し、日本のプライド運動の歴史を共に作っていきましょう」

LGBTQ当事者が感じた怒りと悲しみ

「Pride」をかけて、TRPが抗議の声を上げた。LGBTQをめぐっては、これまでにも様々な差別的発言が問題とされてきたが、今回の杉田議員の発言について、当事者たちが明らかにこれまでとは次元が違うものとして捉えていたことが分かる。

杉田議員が過去に出演したネット番組でもこうした差別発言を繰り返していたことが、web上で拡散されていったことも大きかった。

とくに、杉田議員がLGBTの子どもたちの自殺率が高いという問題について笑いながら話すシーンには、多くの当事者が激怒し、また胸を痛めた。

ハッシュタグを作った平野さんが「これはない」と憤ったのもこの動画だ。

また自民党が公式にコメントをせず、二階俊博幹事長が「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」と、杉田議員の寄稿文を黙認する発言をしたことも当事者たちの怒りに拍車をかけた。

さらに杉田議員自身が、「LGBTの理解促進を担当している先輩議員が『雑誌の記事を全部読んだら、きちんと理解しているし、党の立場も配慮して言葉も選んで書いている。言葉足らずで誤解される所はあるかもしれないけど問題ないから』と、仰ってくれました。自民党の懐の深さを感じます 」とツイートしたことも物議をかもした(後に削除した)。

セクシュアル・マイノリティ以外にも広がった連帯の輪

そして、この問題に声を上げたのはセクシュアル・マイノリティ当事者だけではなかった。

「生産性」という尺度で人間の価値をはかる杉田議員の考えは優生思想にもつながる。子どもを持たない人、障がい者、要介護の人たち……。すべての社会的弱者を切り捨てるものだ。

このことから「LGBTQのみならず、すべての人の問題である」と考える非当事者は少なくなかった。

LGBTQとアライ(理解者)に限らず、このような発言が生まれる政治状況に危機感を感じた多くの人たちが集まり、5000人もの群衆となったのだ。

当事者たちが見せた真の連帯

明治大学教授でゲイを公表している鈴木賢さんは、デモの大きなうねりを見てスピーチでこう語った。

「今日は、日本の革命がはじまった日だ」

これまで「LGBTブーム」と言われながら、どこか「LGBT」という言葉が一人歩きしている感があったように思う。

レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)は、それぞれ違った存在であり、社会的立場も異なる。そのような人々が連帯してきた欧米での歴史的背景が「LGBT」という言葉にあるが、日本には言葉だけが移入され、その後ろにあるストーリーがちゃんと伝わっていない状況であったことは確かだ。

今回の抗議デモに、大きな怒りを共有した様々なセクシュアリティの人たちが個人の意思で集まったことは、実質的に日本のLGBTQが連帯した第一歩となったのではないか。

そして、LGBTQ当事者以外の多くの人々と連帯して差別問題に声を上げたことも大きい。このことは逆に、今後、彼らが他の社会的問題についても連帯しコミットしていく可能性を示唆している。

このデモは、日本のLGBTQをめぐる大きな転換点になったのではないだろうか。

以下に参加者のコメントを紹介する。

松中権さん(NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表)

保毛尾田保毛男をめぐる問題では当事者団体として大きく動いたグッド・エイジング・エールズ。「政治的に中立」という原則に従って団体としては抗議に参加していないが、代表の松中さんは個人で参加していた。

「グッド・エイジング・エールズは、もともと社会とLGBTをつなぐポジティブな場を作ることを目指して活動してきました。しかし、2016年に自分の出身校である一橋大学でアウティング事件が起きたことにショックを受け、これまでのような活動だけでいいのか疑問に思えてきたのです。それ以来、政治的に主張したり、法制度を整えたりすることも大切だと考え、団体以外で個人の活動もしてきました」

「今日は、ここに来るかどうか正直、ギリギリまで迷っていました。抗議活動に壁を感じている自分がいたんです。でも、たんなる食わず嫌いではないかと思い直しました。一橋の事件を思い出して背中を押されたことも確かです。今、声を上げなければ失われていく命があるんです」

畑野とまとさん(トランスジェンダー活動家)

「杉田議員の辞職自体はどうでもいいと思っています。そんなことでは変わらない。杉田議員のような人権と義務をバーターと考えるような体質は、自民党そのものにあるのでは? そのような政党がまともに人権課題に取り組めるとは思いません」

「『ストーンウォール(の反乱)』(1969年にアメリカで起きた、同性愛者らが初めて警官に真っ向から立ち向かって暴動となった歴史的事件)以前、トランスジェンダーの問題もゲイやレズビアンの問題にしても、医療の問題として扱われてきました。ストーンウォール以後、人権問題という社会の問題として扱われるようになったのです。それに匹敵するような大転換が今日起きているのではないでしょうか」

カナイフユキさん(イラストレーター)

「今回、杉田議員の発言が明確な差別であり、それに抗議するべきだと感じた人、そして実際に自民党本部前まで足を運んだ人の数の多さを確認することができ、ゲイ当事者として心強く感じました。普段は政治の話をしない友人ともこの問題については話したりして、時代の潮目を感じました」

「ただ、LGBT当事者の中でも、自民党を擁護する立場や『自分は差別を感じずに暮らせているから関係ない』という考えから、抗議に反対する動きが少なからずあったのは気になりました。いかなる差別も容認してはならないと信じて、反差別のムーブメントを作っていくための力になれたらと思います」

大熊啓さん(ミュージシャン)

ストレートアライの大熊啓さんはこの日、「Singing for Our Lives」という曲に自作の和訳歌詞をつけ弾き語りした。

この曲は、1977年にアメリカで起きた、ゲイ解放運動家の市政委員が同僚によって射殺された「ハーヴェイ・ミルク殺害事件」を受けて、活動家のホーリー・ニアが作詞作曲したもの。

「自分はストレートですが、以前、LGBTに関する学習会に参加したことがあり当事者の人たちがつらい立場にあることを知りました。また今回の件はLGBTに留まらない問題だと思います。国の役に立つか立たないかで人の価値を決めるような政治を放っておいたら大変なことになります」

三橋順子さん(ジェンダー・セクシュアリティ史研究者)

「デモに参加するのは初めてです。生産性で人を計るということは、ナチスそのものの方向性で、これは見過ごせないと思いました。そう思った人が多いからこそこれだけの人が集まったのだと思います」

「今回の件で杉田議員と自民党についてしっかり批判することも大事ですが、これをきっかけにLGBTQの人たちがより連帯を深め、セクシュアル・マイノリティに関する法制化を進めるきっかけになればいいと思います」

小倉東さん(ブックカフェおかまると店主/ドラァグクイーン)

マーガレットの名で活躍する日本のドラァグクイーンの草分けとしても知られ、ゲイ雑誌『バディ』を創刊し、長年編集長を務めるなど、ゲイカルチャーに大きな影響を与えてきた小倉さん。このような抗議活動に足を運ぶのは初めてだという。

「70年代に政治的にアクティブなアメリカのゲイたちは輝いて見え、うらやましく眺めていました。80年代には、日本のゲイが政治化することはないのだろうと諦めの気持ちがありましたが、90年代に入ると、日本でもアクティビズムの動きが出はじめ、自分でも出版やドラァグクイーンとしてのパフォーマンスの仕事を通じて主張をしてきたつもりです」

「2010年代の今日、70年代に夢見ていたゲイの姿が現出したのだと思います。今日はそれを祝福しに来ました」

(取材・文 宇田川しい 編集:笹川かおり)


Source: ハフィントンポスト