愚か者たちがサッカー日本代表に見る夢

FIFAワールドカップ・ロシアの日本代表のグループリーグ最終戦は、大いに議論を呼んだ。

サッカーの神様というのは、実に意地悪な条件を与えたものだ。どういう状況でなにが起こったか、もはや説明が不要なので、それは他の記事にお任せするとして、侃々諤々されているポイントを整理しよう。

「否定派」からすると:
「ダラダラを時間をつぶして、コロンビア対セネガル戦の結果に頼るとは、だせえ」
これはテレビで観戦していた私の、その時の感想だ。

https://platform.twitter.com/widgets.js

「フェアな戦い方を貫かずに、フェアプレイポイントで勝ち上がるなんて皮肉だ」
「これでサムライブルーとか名乗って恥ずかしい……」

https://platform.twitter.com/widgets.js

「肯定派」によると:
「批判を覚悟の上で、瞬時にリスクを計算した西野監督の見事な戦術だ」
「無理に攻めて、失点を重ねて敗退していたら目も当てられない。勝負の世界は、勝てば官軍だ」
指南役さんは、過去の戦争に喩えてこのように喝破した。

https://platform.twitter.com/widgets.js

松井秀喜選手が五打席連続敬遠された星陵対明徳義塾の夏の甲子園を引き合いに出す人もいた。
事の真偽はどうあれ、日本では柔道の山下vs.ラシュワンはスポーツマンシップの鑑として語り継がれているし。

https://platform.twitter.com/widgets.js
先輩、猪木vs.アリはちゃうと思います。

興味深いことに、私の周りでは肯定派には成功した経営者が多いように思った。私自身も経営者であるから、「こういう、よく言えば冷徹、悪く言えば狡猾な手を平然と使えないと、ビジネスの場では勝てないのだろうなぁ」と、己を顧みつつ感じた。

様々な場面が想定された。

  1. 日本が勝ちないし引き分けによって決勝トーナメント進出 最高!
  2. 日本が最後まで得点を諦めずに戦い抜き、試合は負けたが決勝トーナメント進出 よくやった!
  3. 日本が試合終了まで果敢に攻めるも、カウンターにより失点して敗退 う、うーん……。卒倒
  4. 時間をつぶして、他者の戦いに自らの結果を預けて決勝進出 イマココ
  5. ブーイングの中ダラダラを続けてるうちに、別の競技場でセネガルが得点して日本敗退 泡吹いて悶絶。これが最低の中の最低

これはつまり、サッカー日本代表が図らずも私たちに突きつけた「生き方」の問題なのである。

ルールの範囲内であるなら、正々堂々とかフェアネスを脇に措いても、手段を選ばずに目的へ邁進していいのか。

目的の達成はもちろん大事だが、その方法が正当と言えないと意味がないと考えるのか。
途中で条件が変わった時に、はじめに言っていたことと、まったく逆の行動に出てもいいのか。

もしかしたら当てはまるかもしれない、あなたの生活に喩えるなら、
次に昇進しそうな俺とあいつがいて、あいつは仕事に関しては俺より有能だけど、私生活ではギャンブルにカネを浪費している。それで借金もしているらしい。これを上長の耳に入れるべきなのか、とか。

勝手に飲みすぎた親友のカノジョが、僕に対してエッチな雰囲気を出してきた、とか。

中1の息子に「一生懸命勉強しろ。それはいい大学に入るためではなく、自分が幸せに生きるためだ」と説いてきたら、学校で成績最優秀に育った。彼が高3になって「写真の専門学校に行きたい」と言っているのに、一般の「いい大学」とか「自分の母校」に入れたがってしまう、とか。

普通の人なら、「上長に耳打ちする」だろうし、「一晩お相手をしちゃう」だろうし、「写真なんかでどうやって食っていくんだと言ってしまう」だろう。

それを、「黙ってあいつの出世を祝う」ことができるか、「飲みすぎだよ!と一喝して、タクシー代を握らせてでも帰らせる」ことができるか、「私にはわからないけど、写真やりたいならとことんやりなさい」と言ってやれるかどうか。

我々、凡人の観客など、あのスタジアムにいるヒーローたちに夢を見たいだけの勝手な存在だ。西野監督にとっては苦渋であったろうあの決断でも、もしかしたら、リスク計算に長けた人が普通に考えれば、そうしたろう。

カッコよく戦って、きれいに勝つ。そこまで求めるのは、夢見がちな凡人たちで、もしも負ければ容赦なく叩いてしまう、救いようのない連中が我々なのだ。

今回は、カッコ悪く、勝った。よかったよかった。選手たちの健闘と、監督の心労をまずは労わりたい。

今回の一件は、竹槍精神にも通じる、非常に日本人的なメンタリティの問題に見えて、海外メディアの一部も酷評していたから、普遍的な問いのようだ。

幸いにして、関係者であるポーランドのナバウカ監督は「ポーランドのファンに少しばかりの喜びをもたらすことができた」とコメントし、セネガルのシセ監督は「フェアプレーによって敗退が決まったが、私はこのチームを誇りに思う。これもルールの一つだ」と、自国のチームを労う言葉を残し、日本に対して批判的な様子は見られない。ジェントルな関係国と同じグループで戦った僥倖を喜ばなくてはなるまい。

すでに議論は百出している中、これ以上言うべきことはない。大会は続いているのだから、日本代表にとっては次のベルギー戦が、とてつもなく重要になった。語り継ぐに足る、伝説を作れるか。愚か者たちに、どんな夢を見せてくれるか。

明徳義塾が松井選手を五回連続で敬遠した92年のあの夏。次の試合で、明徳は広島工業に0-8で大敗している。サッカー日本代表は、辛勝したグループリーグを糧に、決勝トーナメントでどのような戦いを見せるのか。失礼を承知で言えば、いずれどこかで負ける戦いだ。そして、これは戦争ではないから。

醜い勝ちもいいが、美しい負けも見たい。

Source: ハフィントンポスト