「おねがい ゆるして」と書いた結愛ちゃんは、どうやったら救えたのか

 日々、子どもに関わるソーシャルワークを行っているNPO法人フローレンスの駒崎です。

 本当に悲しいニュースが飛び込んできました。

死亡の5歳、ノートに「おねがいゆるして」両親虐待容疑 https://www.asahi.com/articles/ASL663D72L66UTIL00H.html

 殺された5歳の結愛(ゆあ)ちゃんのメモにはこうありました。

ママ

もうパパとママにいわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりかもっと あしたはできるようにするから

もうおねがいゆるして ゆるしてください おねがいします

ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして

きのうぜんぜんできなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおす

これまでどんだけあほみたいにあそんだか あそぶってあほみたいだからやめる もうぜったいぜったい

やらないからね ぜったいやくそくします

もう あしたはぜったいやるんだぞとおもって いっしょうけんめいやる やるぞ

 僕は、このメモを見て、大変恥ずかしながら泣いてしまいました。

 自分にも5歳の息子がいて、毎日僕が帰ると「パパーっ!」と言って抱きついてきてくれて、そんな年頃の可愛い子どもが、覚えたてのひらがなで一生懸命「ゆるして」と書いたと思うと、涙が止まりませんでした。

 しかし、僕は児童福祉の実践者の一人なので、悲しむだけで終わらせず、どうしたら良かったのか?を考えました。

 後々の検証を読まないと確たることは言えませんが、しかしそれを待っていると数ヶ月、長い場合は1年以上かかるので、今ある情報に基づいて考えを書きます。

【事件の流れ】

 事件の流れを最もよく書いているのは、以下のニュースです。

5歳女児死亡 両親「虐待発覚恐れ病院行かず」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180606/k10011466821000.html

 タイムラインを簡易的にまとめました。

2016年12月 「家の外に出されたり、怪我をしたりして」一度めの一時保護

2017年3月 「家の外に出されたり、怪我をしたりして」二度目の一時保護

      本件で2回書類送検

17年8月 体にあざがあるのを医師が見つけ、児童相談所に連絡。「パパに蹴られた」と開示。

17年12月 雄大容疑者(父)が仕事の関係で東京 目黒区に引っ越し、翌月には優里容疑者(母)と結愛ちゃんも雄大容疑者のもとに引っ越す

18年1月4日 「児童福祉司指導」を解除

18年1月 香川県児童相談所が品川区児童相談所に資料を送り、引き継ぎ

18年1月末 目黒区「今年の1月末から要保護児童対策地域協議会 個別ケース検討会議を開催する準備を進めていた」

2018年2月 引き継ぎを受けた品川児童相談所の担当者がアパートを訪問。優里容疑者(母)に「関わってほしくない」などと言われた

2018年3月 結愛ちゃん虐待死

【親権停止してたら救えた可能性】

 タイムラインでは、四ヶ月間で二度も親から引き離し、一時保護しています。

 これは、相当深刻度が高く、命に関わるシチュエーションです。

 こうした場合、自動的に親権停止し、里親委託や特別養子縁組に移行する仕組みになっていたら、彼女は亡くならずに済んでいたでしょう。

 しかし、日本の親権停止件数はわずか17件。ドイツが1万2000件以上、イギリスが5万件以上なのに対し、ほとんど行われていないレベルです。

出典:2012年度資生堂児童福祉海外研修報告書

http://www.zaidan.shiseido.co.jp/activity/carriers/training/pdf/vol_38.pdf

 日本では長年、子どもの権利よりも親権が優先されてきた歴史があり、いまだにそれが続いてしまっています。

 例えば児童養護施設に子どもを預けたまま、何年も会いに来ないケース。たとえ里親や養親さんが見つかっても、親がノーと言ったら、子どもに里親・特別養子縁組委託はできません。

【児相職員の専門性がもっと高く、もっと人数がいたら救えた可能性】

 現場の児相職員の方々は、昼夜を問わず働いてくださっていて、心から敬意を持っています。

 しかし、今回のケースは、2回も一時保護し、父親は2回書類送検され、さらには医療サイドからの通告もあり、子どもも「パパに蹴られた」と言っているわけで、明らかに一時保護から家庭に戻してしまってはいけないケースだったのではないでしょうか。

 後知恵となってしまいますが、アセスメントが甘すぎたと感じます。

 児相職員の方々の多くは、他の部署からの異動によって来られた方々で、数年経つとまた異動されます。それによって専門性が磨きにくい、という制度的な限界もあるでしょう。

 また、ケースワーカーが持つケースも多すぎで、1人で100件近いケースを持つ場合もあります。

 ちなみに東京都は人口約1300万人で11の児童相談所が管轄しているので、いち児相あたり100万人のエリア感。子どもの人口は約12%ですから、12万人以上の子どもを数人(4万人あたり1人の基準)で担当しています。

 こうなると、常にケースに追いまくられるため、十分なアセスメントを行えなくなるのも必然です。

【里親・養親がもっといれば救えた可能性】

 児相が親子を引き離す「一時保護」を躊躇する理由のひとつが、一時保護した「後」です。

 一時保護所は数が少ないので、もともと通っていた学校には通えなくなったり、虐待児と非行児が一緒の部屋になったりと、子どもの心理的負荷は大きいです。また「一時」保護なので、一定期間しか保護できません。

 一時保護した後に、適切に受け入れてくれる、少人数で家庭的な施設や里親、あるいは養子縁組をしてくれる養親さんがたくさんいれば、一時保育はしやすくなります。

 しかし、現在はそうした施設や里親さん達は圧倒的に不足しています。よって、児相が一時保護したくてもできない事情もあります。

【警察と全件共有していたら、救えた可能性】

 今回のケースは、品川児相が2月に訪問したのに、母親が「関わって欲しくない」と面会を拒否しています。

 ここで、警察が介入し、子どもを保護すべきでした。

 3月時点で12キロという小ささだったので、目視をすれば虐待事実が確認できたはずです。

 足立区のうさぎ用ケージに3歳児が監禁され虐待死した事件でも、児相から子どもに会わせてくれないと警察に連絡が行き、警察が子どもが家にいないことが確認し、虐待されていた次女も保護しました。

 親が子供に会わせない、威嚇・過去に虐待歴がある等の場合は、児相は即時に警察と情報共有をし、会えない場合は警察が家に踏み込んでいくべきです。

 それ以外のケースについても、月1回等と頻度を決め、児相と警察でケースを共有するべきです。いずれにせよ、すべてのケースを児相と警察で共有するのです。

 実際に、愛知・茨城・高知では、児相と警察との全件共有が行われています。

 しかし、今回の事件があった東京都や香川、その他多くの児相は警察との全件共有を行なっていません。

 子どもの命に関わる問題なのに、地域ごとにバラツキが出てしまっている状況です。

 2月の訪問失敗の1ヶ月後に、結愛ちゃんは亡くなっています。

 あの訪問時に警察が踏み込んでいたら、ギリギリのところで救出できたはずです。

しかし本日、都議会では虐待防止NPOが提案した全件共有の要請を、警察消防委員会では不採択。厚生委員会では後ろ向きな「継続審議」となったそうです。

【最後に】

 親権制限や警察との全件共有は、政治がルールを変えれば良いだけ。児相のキャパ不足も予算をつければ良いだけ。

 なぜそれができないか。この社会的養護の分野は、最も票になりにくいからです。だから熱心に動く議員自体が少ない。

 でも、票にはならなくても、「評」(評判)にはできます。この分野で動こうという政治家を、ネットや街頭で応援しましょう。あるいは次の選挙で駅前に立つ政治家に「児童虐待に取り組む?」と聞いてください。

 子どもが虐待で死ぬニュースを見て、その場だけで胸を痛めても、悲しくなっても、再発は防げません。

 一過性の感情だけで終えず、制度を変える、お金の使い道を変えることに繋げて、構造的な再発防止を目指しましょう。

 それが彼女を助けられなかった我々大人にとって、せめてもの償いではないでしょうか。

(2018年駒崎弘樹ブログより転載)

Source: ハフィントンポスト