窃盗で捕まった脱走犯が凶悪犯罪を犯すとしたら、それは何が原因か?

脱走した元窃盗犯を捕まえるために、全国津々浦々から1200人の警察官が動員された。まるでテロリストを追いかける様な異様な光景だった。私が1年半暮らした広島県尾道市に、たくさんの記者が入り、「怖いです」という地元民の声を流し続け、大きな地域のイベントが中止に追い込まれた。確かに脱走犯が潜伏しているというのはいい気持ちはしないが、ここは落ち着いてほしい。近所や親せきに1人くらい万引きをしたことがある人はいないだろうか?私はいるし、おそらく大半の読者がいるのではないか。もしそうだとすれば、私たちは、元窃盗犯と日常的に接して暮らしているのではないか。だから、そこまで怖がることはない。私からしたら、1200人の警察官が動員されたことの方がよっぽど怖い

窃盗犯が凶悪犯罪に走る可能性は極めて低い。私が毎日新聞記者時代、警察を担当していたころ、ある警察官から「窃盗犯が強盗や殺人をすることは滅多にない。窃盗だけを繰り返す」と言っていた。確かに、他人を傷つけずに金品を奪う能力があるのなら、あえて危険な道を選ぶ理由はない。

さらに、この脱走犯が造船所で働いていたということは、受刑者の中でも、一番真面目に受刑生活を送ってきたという証である。これまで同じ造船所から20人が脱走したというが、メディアはなぜ、その人たちが脱走中に犯罪を犯したかどうか言及しないのか?言及しないのは、犯罪を犯したケースがなかったからではないか?

今日のワイドショーでも、この脱走犯が凶悪化するかどうか話し合っていた。そこで元警察官のコメンテーターが「その可能性は低い」としながらも、「ただ、もう長い間潜伏生活を送っていますからね。そこからくるストレスが引き金になって凶悪化する可能性も否定できませんね」と言った。彼の論理が正しければ、ニートや引きこもりの人たちの犯罪率が極めて高いということになるが、そんなことはないだろう。

真面目に受刑生活を送っていた元窃盗犯が、突然、凶悪化する理由があるとすれば、脱走しただけで、まるでテロリストが逃げ回っているかのように騒ぐ社会に対する幻滅だろう。あれを見たら、どんな脱走犯でも「もう、私がこの社会で生きていく道はないな」と思うだろう。

私は学生時代、イギリスの青少年センターでボランティア活動をしたことがあるが、そこには、20代の男性受刑者も一緒に活動をしていた。彼と一緒に食事や買い物にでかけるうち、私の中にあった「受刑者」のイメージは一変し、彼らが社会に溶け込めるよう応援することが私たちの役割であることを思い知った。

無論、脱走することはいけないし、彼が自首することを願っている。と同時に、元窃盗犯が脱走しただけで、そこまで騒かないでほしいとも願う。こちらが騒げば騒ぐほど、受刑者と社会との距離が広がり、返って、彼らを凶悪化させかねない。尾道にはたくさん空き家があって、そのどこかで潜伏しているのではと憶測が流れているが、私は彼が空き家の中で首をつっていなことを祈っている。

Source: ハフィントンポスト