バスケ千葉ジェッツは、なぜ経営の危機を乗り越え日本一になれたのか。強くて稼げるチームの作り方とは

男子決勝・千葉ジェッツ-シーホース三河。三河を破り、2連覇を果たした千葉の選手=201801月7日、さいたまスーパーアリーナ

バスケットボールの新しいプロリーグ「Bリーグ」が発足し、2年目のシーズンを迎えている。B1に所属する「千葉ジェッツふなばし」(千葉県船橋市)は、2年連続で年間の観客動員数リーグNO.1(※1)を達成し、バスケット日本一を決める大会「天皇杯」で2連覇を果たした。

今でこそ人気、実力ともに日本トップクラスに成長したジェッツだが、チーム創設当初の2011年ごろは、経営不振でつぶれるかどうかの瀬戸際にあった。その危機を救ったのが、チームの代表取締役社長の島田慎二氏だ。

バスケは門外漢だったが、これまでに培った経営のノウハウを武器に、強くて稼げるチームをつくりあげた。その軌跡を著書「千葉ジェッツの奇跡」につづっている。

「スポーツだから許されるという甘えは通用しない」と語る島田社長に、ファンを魅了し続けるチームづくりの秘訣や、スポーツ界に必要な経営について聞いた。

(※1Bリーグ前身の実業団リーグ「NBL」の2015-16シーズンと、Bリーグ初年度の16-17シーズンの2年連続)

“火中の栗”だった

ーー千葉ジェッツに関わったきっかけや経緯を教えてください。

千葉ジェッツは創設したばかりの2011年、bjリーグ(※2)のシーズン開幕直後に既に経営不振に陥っていました。道永幸治取締役会長から「事業の中身が大丈夫かどうか、不安になってきたから見てほしい。助けてほしい」とコンサルティングを頼まれたのがきっかけです。

道永会長とは20年来の付き合いで、もともと私が旅行会社に勤めていた時のお客さんでした。その後も、私が起業した際に出資してもらったりしました。私が会社を売却し、事業から引退してしばらくして、彼はオーナーとしてチームを立ち上げましたが、(赤字で)お金がどんどん垂れ流し状態になってしまっていました。

(※2日本バスケ界は当時、プロリーグ「bjリーグ」と実業団リーグ「NBL」の2つのリーグが存在し、ジェッツは2011年はbjリーグに所属していた。この2つのリーグが統合し、Bリーグとなった)

ーー全く違う業界で、経営状況も悪いのに受けようと決めたのはなぜでしょうか。バスケットがこれから成長する見通しがあったのでしょうか。

バスケ界に可能性があるとか、もしかしたら一発当たるかもという野心的な思いはゼロでした。

起業した20代半ばから株を売却する30代後半までお世話になった人が困っているのだから、お返しするしかない。仁義というか、引き受けるしかないだろうという、”火中の栗”前提ですよ。

集客UPさせた3原則とは

ーー「ジェッツは想像以上に経営が機能してなかった」と著書でつづっていますが、今では、2年連続で年間観客動員数ナンバーワンを達成するまでに成長しました。何が要因だったのでしょうか。

集客をあげるには、ファンの方が会場に足を運びたいと思う状況を作ることが大切です。そのためには、チームのバスケットの魅力がないといけません。ジェッツの場合は、試合では(選手の)富樫やギャビンを中心に走るバスケで、アップテンポで見ていて面白いプレーをすることです。

また、エンターテインメントや演出にものすごく投資しています。アリーナスポーツであそこまでド派手な演出しているのは、おそらくジェッツしかない。バスケット好きだけでなく、会場の雰囲気が好きという人もいるので、非日常感を演出するよう心がけています。

コート上に投影されたプロジェクションマッピング

あとは、お客さんが気持ちよく快適に過ごせるよう、ホスピタリティにも力を入れています。この3つがバランスよく揃えば、お客さんの満足度が上がってまた見たくなります。チームもエンターテインメントもホスピタリティも毎年レベルアップしていることが、集客数が増えている要因だと思います。

ーーそのためにどのような経営努力をされたのですか。

お客さんを魅力的な状況で迎え入れるため、いい選手を獲得してエンターテインメントを充実させるには、何億、何千万とお金がかかります。そのお金をどう稼ぐのかがビジネスで、社員をビジネスに向かわせるための働き方や意識の改革をしました。

bjからNBLにリーグを変えたり(※3)、「打倒トヨタ」と掲げてスポンサーから資金を獲得したりしました。スタッフが頑張って働くための理念や方針、頑張ったら給料が増える評価・給与制度も整えました。

いろんなアプローチから経営を改善してお金を生み出し、上手く投資したことが、お客さんが増えるきっかけになっています。よく「どうやって増えたんですか」と聞かれるのですが、一言で言えないんですよ、絶対。長い年月をかけ、(魅力的なチームにするために)投資できる資金を獲得するための戦いでした。

(※3 ジェッツは2013年、bjからNBLリーグに移籍した)

千葉ジェッツ対アルバルク東京のホーム試合(2月18日)

ーーチームの結果が出ず、集客数も伸び悩んだ時期がありました。企業努力で観客が増え、選手のモチベーションが上がってチームが強くなったのか、それともチームが強くなったから集客数が伸びたのでしょうか。

常に経営陣とチームの力関係が切磋琢磨しているイメージです。今はどちらもうまくいっているのがジェッツの強みですが、そこまでには長い道のりがありました。

3年前は、年間観客動員数が10万人を達成しリーグNo.1になりましたが、チーム成績が振るわず、「こんなにお客さんを呼んでるんだから、もっと頑張ってくれ」と言っていた時代もありました。

でも2017年、18年と天皇杯で優勝して、リーグチャンピオンも狙えるようなレベルまでいった時には、チームの方が『経営』より上になったと思います。

5345人が来場し、満席状態に。

「試合会場は映画館のようにしたい」

ーーチームや会場の雰囲気づくりで、Bリーグや他のスポーツ、海外も含めて参考にしているチームはありますか。

私がそもそもバスケットを知らないでこの世界に入ってきた人間なので、あまりベンチマークしてないです。

お客さんがまた見に来ようと思うチームの要素は、最後まで諦めないで走ったりルーズボールに飛び込んだりする姿を見てもらい、日頃仕事でストレスを抱えているサラリーマンや女性の方々に元気を与えることじゃないでしょうか。

プレースタイルやチームカラーというよりは、普遍的に心をくすぐるようなことをどれだけできるだと思います。

エンターテインメント面でも、Jリーグがどういうよりも、スタッフにはディズニーや宝塚など異業種のエンターテインメントを観にいってもらい、お客さんを喜ばせるプロフェッショナリズムを学んでほしいと伝えています。

例えば、プロは舞台袖の見えない部分で手を抜かないといった点ですね。どんな照明や音楽を使うかよりも、どうやったらお客さんをワッと驚かせるのかという感性のほうが大事です。そのために、全く異業種のエンターテインメントをベンチマークしていますし、試合会場も映画館みたいなイメージで作り上げようと思っています。

ーー実際に異業種のサービス、エンターテインメント性をスタッフに学んでもらって、千葉ジェッツに活かしているんですか。

3月はシルク・ド・ソレイユの作品を会社負担で観に行きますし、これからもどんどん増やしていこうと思ってます。そもそも、ジェッツのプレーのクオリティがそこまで高いとは思っていません。

ーーエンターテインメント性でお客さんを獲得して、また来てもらうことがすごく大事だと。

三原則(チームの魅力、エンターテインメント、ホスピタリティ)を追求すればいいと考えていて、例えば、ホスピタリティはディズニーランドみたいなものかもしれないし、エンターテインメントは劇団四季かもしれません。

何もNBAのようなクオリティでなくて、例えば高校生のように負けたら終わりぐらいアグレッシブに試合をすれば、観客が魅了されるというふうに考えています。

ーー他のエンターテインメントを見に行って、実際に演出や会場づくりに取り入れた例はありますか。

コンサートなどを見て、具体的に何かをそのまま取り入れたというのはないですね。

例えば照明の光量も、多少お金はかかるけど、インパクトないといけないというので強くするとかはあります。新しくこれを持ってきましたというよりは、クオリティへのこだわりに影響を与えていることはたくさんあります。他のプロバスケチームやスポーツのよい取り組みで、取り入れられるものは取り入れています。

ーー例えばプロ野球のDeNAは、ボックス席を設けたりグッズを充実させたりして、集客数が伸びたという実績がありますね。

専用スタジアムがあるので、自由自在にいじれるのは羨ましいです。私たちバスケ界は、試合の日だけ市民体育館をレンタルしているので、あるものを壊せないという前提があります。ある中で何ができるのかを考えるしかありません。

スポーツだから許されるという甘えを律する

ーー島田社長のように、経営を経験してチームの経営者やオーナーになる人は今のBリーグのどれくらいいるのでしょうか。

社長を経験している人は少ないと思います。一番多いのは脱サラですよね。bjリーグやNBLを含めて、バスケットチームを作ってみたいという夢を持って地元の実業家を集めて、チーム創設をきっかけに社長になった人のほうが圧倒的に多い。それから企業系のクラブ(※4)は、親会社から来ることが多いのです。

私のように、異業種の経営者だった例は本当に珍しいのじゃないでしょうか。

(※4 実業団リーグの旧NBLに所属していたチームの多くは、大企業がスポンサーについている)

ーー島田社長の目から見て、まだまだ経営のノウハウがなくて、マネジメントができていない部分が多いという印象でしょうか。

これはバスケに限った話ではなくて、スポーツ界全般に言えることです。スポーツの経営は他業種の経営よりすごく難しいので、スキル・経験もなくいきなりこれが脱サラの最初の事業と考えると、大変だろうなと思いますね。

ーーどの点が他の経営よりも難しいのでしょうか。

やっぱり良くも悪くも地場産業ですよね。愛されれば強いですが、ひかれたら弱い。愛されるというのは、人気があったり、必要とされたり、強かったり、スター選手がいたりして初めてなれる。10チームあったら1つあるかないかで、ほとんどはそうはなれない。

だから、クラブの存在意義として何を目指していくのかのジャッジメントを経営者がしっかりしないといけない。理念なりに基づいてしっかりと経営できるかできないかですね。

力もないのに勝ちたい、お金もないのにいい選手がほしい、稼ぐ努力はあまりしないけどチームには興味があるという態度や、寄付を求めるようにスポンサーに(出資を)お願いに行くけれど、メリットを提供する気迫がない。これではおねだり経営で、Win-Winの本来のギブアンドテイクのビジネスではないですよね。

そういった勘違いや誤解、スポーツだから許されると思っている甘えや妥協を経営者がしっかり律して、どういうチームを作る、どういう風に地域に根付くのかをしっかり決めて実行する。

たとえ勝てなくても、地域の人たちに「このチームは必要なんだ」と思わせられるか。ほとんどのチームは、こういった課題を突きつけられているはずです。

会場を赤色で埋めつくす千葉ジェッツのブースター

ーー好きだとか、思い入れでチームを始めた方が多く、ビジネスの部分が甘くなってしまっているということですか。

そうですね。「この地域のスポーツチームとして、子供達の夢のためにスポンサーや寄付をお願いしますよ」と頼んでも、「なぜあなたに寄付しなきゃいけないの?勝手に立ち上げただけでしょう」となるだけです。

勝手に立ち上げて(お金を)出してくれと言われて、「別に(協力する必要)ない」となるか、「そこまでの思い入れがあるなら応援する」と思わせられるかの差だと思います。

軽いアドバイスのつもりが、経営塾に

ーー島田塾で他のチームに経営を指南していますが、起ち上げたきっかけは、「バスケット界に経営視点が足りないから何とかしないと」といった思いからなのでしょうか。

いえ、そんなに正義感を持って恩着せがましく始めたわけではないです。

たまたま、Bリーグの理事会で一緒になったあるチームの社長と2次会の後に飲んでいた時に、経営談義になりました。アドバイスをしていたのですが、その内に「そんな感覚で経営したら上手くいくわけない」と(私が)怒って帰ってしまったんです(笑)。その後に「大人気なかった。ごめんなさいね」と謝りました。

上から言ったつもりはなくて、本気でそう思ったから伝えたんですが、「ジェッツはお客さんが入っていて、どうせ儲かってる」と面白く思わない人もいるので、変に伝わったら嫌だなと。

好き勝手に言うことは誰でもできるけど、言ったからには責任が伴います。私もあそこまで言った以上、「俺で良かったら経営のアドバイスをするので、うちの事務所に来ない?」と誘ったら、ここに来たんですよ。

ーー事務所に来たんですね。

「2人でやるのももったいないから、仲のいいB2などのチームで経営で悩んでいる社長がいたら声をかけてもいいよ」と気軽に言ったら、10人ぐらい集まったんです。ちょうど去年の今ぐらいの時期に、「第1回島田塾」をここでオフィシャルではなく、ボランティアでやったのが始まりです。

他の経営者の人達が悩んでいたことは、経営理念や経営哲学、経営者ってなんぞやということでした。そこで、どういう心持ちで経営しなきゃ駄目だ、みたいなことを一番最初に伝えました。他には、チームの存在意義を明確にしましょう、といったようなことを伝えています。

島田慎二代表

「代表が強くないと盛り上がらないと思った瞬間に、バスケ界が終わる」

ーーバスケットは競技人口はすごく多いですが、サッカーや野球など他のスポーツに比べて少し盛り上がりが足りない印象があります。何が課題、必要だと思いますか。

バスケが盛り上がるには、経験者以外の人達に会場にもっと足を運んでもらうことがまず第一歩です。まずは客を集めて、さらにリピートさせるという2つのパワーが必要です。キャンペーンや割引をやれば人は来るので、集めるのは簡単ですが、「お金を払ってまでまた見たい」と思わせることは別です。

リーグの全36クラブのチケット担当者を集めてよく勉強会をするのですが、「集客とリピートのタイヤの両輪のように同時進行で回していかないと、お客さんは増えませんよ」と伝えています。

地元のチームを観に行ったけど「つまらなかった」「対応が悪かった」「ホスピタリティも低い」と思われたら、次は来てもらえません。その人が地元で「ジェッツを観に行ったけどイマイチだった」と誰かに話したら、それを聞いた人は行く気がまず失せるでしょう。

集客だけ頑張ってもホスピタリティが低かったら、風評被害を増やすための営業をしているようなものです。地方創生や地域に貢献しているチームもありますし、Bリーグはチーム数が多いのでそれが全国に広がれば、メディアも放っておかなくなるでしょう。

もちろん一番は日本代表が強くなることなんですが、代表が強くならないとバスケが盛り上がらないというロジックをもった瞬間に、バスケ界が終わってしまいます。いきなりアメリカに勝つのは難しいし、それを待っていたらおそらく何百年かかるでしょう。

日本にバスケットをより深く根付かせるためには、「日本代表がメダルを取った」という以外でメディアが注目していかざるを得ないような状況をつくり、いろんな人に知ってもらうしかないでしょう。

Source: ハフィントンポスト